近年、労働者のメンタルヘルス不調が深刻な問題となっています。
厚生労働省の「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は53.3%で、約半数の労働者が仕事において強いストレスを感じていることがわかる結果になっています。
ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者においてその内容には、「仕事の量」「仕事の失敗、責任の発生等」「仕事の質」が多く挙げられています。
引用/厚生労働省の「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)」
日本経済団体連合会の「2022年人事・労務に関する トップ・マネジメント調査結果」によると、賃金以外で今後重視したい項目として「メンタルヘルス対策」が多くの回答を得ているようです。
引用/日本経済団体連合会「2022年人事・労務に関する トップ・マネジメント調査結果」
上記の結果から多くの労働者が職場においてストレスを感じており、そのうちうつ病に罹患する人も少なくないことが数値から明らかになっています。
また、企業側も少なからずその状況を感じ取り、対策に前向きなことが調査結果からわかります。
企業においてメンタルヘルス不調の一次予防(未然防止)には、以下のような対策が有効です。
●ストレスマネジメントの取り組み:従業員にストレスマネジメントの方法を教育することや、ストレスがたまりやすい業務を見直し、負荷を軽減することが必要です。
●ワークライフバランスの改善:従業員が適切なワークライフバランスを保てるよう、フレックスタイム制度や在宅勤務の導入などが有効です。
●コミュニケーションの促進:従業員同士のコミュニケーションを促進することで、ストレスを軽減することができます。例えば、社員同士の交流会や社員旅行などを企画することが有効です。
●働き方改革の推進:過労やストレスが原因となる労働時間の削減や、業務の効率化を行うことで、従業員のストレスを軽減することができます。
●メンタルヘルスに関する教育の実施:従業員に対して、メンタルヘルスの重要性やストレスやうつ病の兆候についての知識を教育することが有効です。また、上司や管理職に対しても、従業員のメンタルヘルス管理に関するトレーニングを実施することが必要です。
メンタルヘルスの二次予防には、早期発見と早期治療が重要です。以下は対策例です。
従業員のメンタルヘルス状態を定期的にチェックすることで、早期に問題を発見することができます。このチェックは、匿名で行われることが望ましいとされています。
職場内にカウンセリングサービスを提供することで、従業員が早期にメンタルヘルスの問題に取り組むことができます。また、精神保健福祉士などの専門家がカウンセリングを行うことで、より的確なアドバイスを提供することができます。
管理職が、メンタルヘルスの問題に対処するためのトレーニングを受けることで、早期発見につながることがあります。具体的には、従業員の行動やパフォーマンスに異常がある場合には、注意深く観察し、問題がある場合には、適切な対応を行うことが必要です。
従業員がメンタルヘルスの問題を自己診断するために、関連する情報を提供することも重要です。例えば、ストレス管理の方法や、メンタルヘルスに関する正しい知識を提供することができます。
メンタルヘルスの3次予防では、従業員が職場復帰し、社会的・職業的な機能を回復するための支援が必要です。以下に対策例をいくつか挙げます。
従業員がメンタルヘルス不調から回復するためには、カウンセリングや心理療法が有効です。企業が専門家による治療の提供を行うことで、従業員が回復し、職場復帰を促進することができます。
従業員が職場復帰する際には、体力的、精神的に負荷がかかることがあります。企業は、職場復帰前の面談や、フレキシブルな勤務時間の導入、社員の協力を得ながら業務負担を軽減することで、従業員の負担を軽減し、職場復帰を支援することができます。
職場環境がストレスの原因となっている場合、従業員のメンタルヘルス不調や職場復帰の妨げとなることがあります。企業は、職場環境の改善に取り組むことで、従業員のメンタルヘルスを支援し、職場復帰を促進することができます。
「心理的安全性(psychological safety)」とは、チームや組織のメンバーが自分自身の意見やアイデアを自由に表明し、失敗やミスを恐れずに率直にコミュニケーションができる状態のことを指します。つまり、メンバーが自分らしくあり続けられる環境が整っていることを意味します。
心理的安全性が高い環境では、メンバーは自分のアイデアや提案を出しやすく、他のメンバーとのディスカッションやフィードバックによって改善を加えることができます。また、失敗やミスに対しても、叱責や罰則ではなく改善策を共有することで、誰もが成長し続けることができます。
逆に、心理的安全性が低い場合、メンバーは自分の意見を言いづらくなり、新しいアイデアや提案を出すことが躊躇されます。また、ミスや失敗に対して責任が問われると、メンバーは自己防衛的になって、問題解決に向けた意欲が低下することがあります。
具体的な事例として、Googleの「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれる研究があります。この研究では、心理的安全性が高いチームが、高い業績を発揮することが明らかになりました。特に、心理的安全性が低いチームでは、メンバーの離職率が高く、業績も悪かったという結果が出ています。
心理的安全性は、組織内のメンバーが自信を持ってアイデアを出し合い、積極的にコミュニケーションをとることができる環境を作り出すことで、創造性や生産性が向上するという利点があります。
心理的安全性が高い職場には以下のようなメリットがあります。
心理的安全性が高い職場では、社員たちは自分の意見や感情を自由に表現することができます。これにより、コミュニケーションが円滑になり、問題解決やアイデア出しの効率が上がります。
心理的安全性が高い職場では、社員たちは安心して働くことができます。そのため、ストレスが少なくなり、生産性が向上することが期待できます。また、職場の雰囲気がよくなり、職場への帰属意識が高まることもあります。
心理的安全性が高い職場では、社員たちは自分のアイデアを自由に出し合うことができます。そのため、新しいアイデアや発想が生まれやすくなり、イノベーションが促進されます。
心理的安全性が高い職場では、社員たちは失敗を恐れずに仕事に取り組むことができます。そのため、ミスが減り、問題解決力が向上することが期待できます。また、社員たちが失敗から学び、成長することもできます。
従業員同士や管理職とのコミュニケーションを活発化させ、情報を共有しやすい環境を作ることが大切です。また、フィードバックを積極的に行い、問題があれば早期に対処することが心理的安全性を高めるために重要です。
ヒューマンエラーは避けられないものです。ミスを指摘する際には、責めるのではなく原因を探り、解決策を一緒に考えることが必要です。これにより、従業員は失敗を恐れずに業務に取り組むことができます。
過剰な労働はストレスの原因となります。適切な労働時間の設定やフレックスタイム制度、テレワーク制度の導入など、従業員が働きやすい環境を整えることが大切です。
スキルアップやキャリアアップの機会を提供し、従業員が自己実現を感じられるような環境を作ることが心理的安全性を高めるために重要です。
様々なバックグラウンドや経験を持つ人材を積極的に採用することで、職場内の多様性が高まり、従業員は自分らしさを表現しやすくなります。これにより、心理的安全性が高まります。
メンタルヘルスケアの目的は、心身の健康を維持し、ストレスや精神的な病気を防止することです。組織や各従業員がメンタルヘルスケアに注力することは非常に重要で、以下のような姿勢が必要です。
●メンタルヘルスケアは組織にとっても重要な問題であることを認識し、そのための予算やリソースを確保することが必要です。
●従業員がストレスやプレッシャーを感じやすい職場環境を改善し、柔軟な働き方や心理的なサポートを提供することが必要です。
●メンタルヘルスケアについての情報を提供し、従業員が問題を抱えた場合には適切な支援を提供することが必要です。
●組織全体でメンタルヘルスケアに取り組むことが必要であり、上司や同僚が助け合い、相談し合う環境を整備することが重要です。
●メンタルヘルスケアは自己管理の一環であり、自分自身の心身の健康状態を定期的にチェックすることが必要です。
●ストレスやプレッシャーを感じた場合には、自己解決を試みることも大切ですが、専門家の支援を受けることも重要です。
●ワークライフバランスを大切にし、適度な運動や睡眠、栄養バランスの良い食事を心がけることが必要です。
●自己効力感を高めることが大切であり、自分自身を肯定し、ポジティブな思考を持つことが必要です。
以上のような姿勢を組織や各従業員が持ち、メンタルヘルスケアに取り組むことで、心身の健康を維持し、より健康的な職場環境を実現することができます。