固定残業代とは、企業が従業員に対してあらかじめ月給に残業代を含めた一定の金額を支払う制度です。
通常の残業代とは異なり、実際に働いた残業時間に応じて支払われるものではなく、あらかじめ定められた時間分の残業代を支給し、その時間を超える残業時間が生じた場合には別途残業代を支払います。
企業によっては、みなし残業代、固定残業手当、みなし残業手当、定額残業代など、様々な名称で呼ばれる場合があります。
求職者にとって、最初に確認する求人情報の項目としては、賃金の場合が多いでしょう。
固定残業代制度を取り入れることで、高い給料がもらえる会社だと求職者に映る可能性が大きくあります。
求職者にとっては、高い給料や手当の提示は魅力的な要素となります。
これにより、求職者は自身の労働に対して適正な報酬を受け取ることが期待できると感じるでしょう。
但し、求人票に、①基本給と固定残業代の金額の明示、②固定残業代の残業時間と金額について、適切な明示が必要です。
従業員にとって、時間外労働をしなくても定額の残業代が支払われることで、できるだけ時間外労働をせずに定額残業代を受け取るというインセンティブが生まれます。
そのため、定額残業代を導入することで、長時間労働の削減につながりやすくなります。
従業員の中には、能力の低さから業務を定時内に終えられない人や、生活費のために故意に残業して残業代を稼ぐ人がいるようです。このため、通常の残業代制度では、能力の低い人よりも能力の高い人の給与が低くなるという問題が生じます。その結果、優秀な人のモチベーションが低下し、最悪の場合退職につながる可能性もあります。
固定残業代制度の導入により、同じ給与のもとで同じ仕事ができるようになります。従業員の間で必要な時間は能力によって異なるかもしれませんが、給与には差が生じないため、公平性を確保できます。
固定残業代は、実際の残業時間に関係なく支給されるため、残業時間がゼロでも残業代が支払われるため、仕事効率の高い人にとっては有利になります。
固定残業代を支払えば割増賃金の支払は不要という誤解のイメージがあり、固定残業代制度について「固定残業代を支給するから残業代は出ない」という説明を受けたことがある労働者は少なくないようです。
固定残業代制度を導入している会社では、いくら残業をしても定額の残業代しか支給されないという労働基準法に違反している実態があるようです。
労働者が残業した結果、法律上支払われるべき割増賃金額が固定残業代を上回る場合には、その超過分は必ず支払わなければなりません。
しかし固定残業代には上述したような誤解のイメージが少なからずあり、マイナスイメージになりやすい現状があります。
固定残業代制度は、賃金計算において一定の割増賃金を固定して支給する制度であって、労働者の労働を強いるものではありません。
固定残業代が支払われるからといって、必ずしも残業しなければならないという制度ではありません。
時には残業が必要な場合もあると思いますが、特に残業が必要ない場合は固定残業代制度の下でも定時に帰ることは当然です。
また固定残業代を支給することで、実際の残業時間の残業代が固定残業代を超えても払われない現状が少なからずあるようです。
別途手当として「固定残業手当」などの名称を使用することで明確な区分につながります。
従業員に対して、書面によって固定残業代の金額や時間数、計算根拠などを明示することが必要です。
「固定残業手当は〇時間分の時間外手当相当額」等、固定残業代の金額や手当に相当する残業時間数を労働条件通知書や雇用契約書、給与明細に記載する必要があります。
1ヶ月の残業手当を計算した際、その金額が固定残業代を上回る場合、その差額を支払う必要があります。
したがって、固定残業代制度を導入していても、月々の残業手当については、別途法令に基づいた計算を行う必要があります。具体的には、固定残業代の金額よりも実際に計算された残業手当が多い場合には、その差額を支払うように運用しなければなりません。
またその旨を雇用契約書や就業規則で明示する必要があります。
月平均所定労働時間=(1年の暦日数-1年の休日数)×1日の所定労働時間÷12
1年の暦の日数(例えば1月は31日)から、企業の年間休日合計日数を控除すると、1年の所定労働日数が算出できます。
この1年の所定労働日数に1日の所定労働時間を乗じ、その値を12で除すと月の平均の所定労働時間が算出できます。
月給額を月平均所定労働時間で除すことで、1時間あたりの賃金額を算出できます。
この月給額からは、基本的に①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除外した月給額を使用します。但し、上記の①から⑦に該当する場合であっても、従業員に一律に支給される手当の場合は含めて計算する必要があります。
割増率は、労働基準法で最低25%の割り増しが義務付けられていますが、企業によっては25%よりも高い割増率を定めている場合もあります。
従業員にとっては高い割増率が設定されている場合、固定残業代の導入はメリットとなりますが、企業側にとっては不利益になります。
想定される残業時間を設定し、固定残業代を計算します。
固定残業代 =1時間あたりの賃金額×1.25×想定される残業時間(45時間以下)
固定残業代の導入には、従業員と企業双方にとってメリットがある一方、労働者のモチベーション低下や不満を招く恐れもあります。
そのため、固定残業代の導入を検討する場合には、労働時間の実態や業務内容、従業員のニーズなどを考慮し、慎重な判断をすることが重要です。
また導入する際には、従業員に対して適切な説明を行い、理解と納得を得ることが大切です。