Ⅰ X1およびX2(原告・控訴人=被控訴人・被上告人)は、自動車学校の経営等を目的とする株式会社Y社(被告・被控訴人=控訴人・上告人)の正職員として勤務し、60歳時に退職金の支給を受けて定年退職した後、Y社に有期労働契約で再雇用され、65歳時まで嘱託職員として教習指導員の業務に従事した。
Ⅱ X1の基本給は、定年退職時には月額18万1640円、再雇用後の1年間は月額8万1738円、その後は月額7万4677円、X2の基本給は、定年退職時には月額16万7250円、再雇用後の1年間は月額8万1700円、その後は月額7万2700円であった。X1は、定年退職前の3年間は1回あたり平均23万3000円の賞与の支給を受け、再雇用後は、1回あたり8万1427円から10万5877円の嘱託職員一時金、X2は、定年退職前の3年間は1回あたり平均22万5000円の賞与の支給を受け、再雇用後は、1回あたり7万3164円から10万7500円の嘱託職員一時金の支給を受けた。
Ⅲ 嘱託職員として勤務していたX1・X2は、正職員との間の基本給、賞与等の相違は労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ)に違反すると主張して、Y社に対し不法行為に基づく損害賠償等を求めて、本件訴えを提起した。第1審(名古屋地判令和2・10・28労判1233号5頁)および第2審(名古屋高判令和4・3・25労判ジャーナル106号2頁)は、X1らの基本給がX1らの定年退職時の基本給の60%を下回る部分、および、X1らの嘱託職員一時金がX1らの定年退職時の基本給の60%に所定の掛け率を乗じて得た金額を下回る部分は、労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるとし、X1らの損害賠償請求を一部認容すべきものとした。これに対し、X1・X2およびY社がそれぞれ上告受理申立てをし、最高裁は、Y社の申立てを受理した。
Ⅰ 労契法20条は、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、有期契約労働者と無期契約労働者の間の「労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである」。
Ⅱ Y社の正職員の基本給は、勤続年数による差異が大きいとまではいえないことからすると、勤続給としての性質のみを有するということはできず、職務給としての性質をも有するものとみる余地がある。他方で、一部の正職員に別途支給されていた役付手当の支給額は明らかでなく、正職員の基本給には功績給も含まれていることなどに照らすと、その基本給は職能給としての性質を有するものとみる余地もある。そして、前記事実関係からは、このように様々な性質を有する可能性がある基本給を支給することとされた目的を確定することもできない。
原審は、正職員の基本給につき、年功的性格を有するものであったとするにとどまり、「他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず、また、嘱託職員の基本給についても、その性質及び支給の目的を何ら検討していない。」
また、労使交渉に関する事情を労契法20条にいう「その他の事情」として考慮するに当たっては、「労使交渉の結果のみならず、その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される。」
以上によれば、正職員と嘱託職員であるX1らとの間の基本給の金額の相違について、「各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。」
Ⅲ X1らに支給されていた嘱託職員一時金は、正職員の賞与に代替するものと位置づけられていたといえるところ、「原審は、賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給の目的を何ら検討していない。」
また、原審は、Y社がX1の所属する労働組合等との間で行っていた労使交渉の結果に着目するにとどまり、その具体的な経緯を勘案していない。
賞与及び嘱託職員一時金の性質や支給の目的を踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、「その一部が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。」
引用/厚生労働省